勝手にディスクガイド〜ポール・マッカートニーソロ編

ポールマッカートニーのソロ作品を中心に彼のビートルズ以降の動きを振り返っていく特集です。未聴の作品があれば是非!これを機会にトライしてみてください。

ポール・マッカートニー『Pipes of Peace』——ポップと平和の交差点に立つ音楽


アルバムの背景:『Tug of War』の“裏側”として生まれた作品

『Pipes of Peace』(1983年)は、前作『Tug of War』と同じセッションで制作された楽曲が多く収録された“姉妹作品”的アルバムです。
前作が“葛藤と再出発”をテーマにしたシリアスな作風だったのに対し、今作はよりポップで親しみやすく、平和への希望とユーモアを前面に押し出した構成となっています。

引き続きプロデューサーはジョージ・マーティンが担当。
なんと言っても最大の聴きどころはキング・オブ・ポップス マイケルジャクソンとのコラボソング!


🎧 収録曲レビュー:主要トラックを中心に


1. Pipes of Peace

アルバムのタイトル曲にして、ポールらしい優しさと希望に満ちたアンセム
マーチ調のリズムと壮大なコーラス、印象的なメロディが融合し、「戦争の代わりに音楽を」というメッセージを温かく届けてくれます。

※この曲のプロモーションビデオは第一次世界大戦の休戦エピソード(1914年のクリスマス休戦)を再現した感動的な映像作品となっており、楽曲とともに深く心に残ります。


2. Say Say Say(with マイケル・ジャクソン)

80年代の大ヒット曲のひとつ。
ポールとマイケル・ジャクソンが夢のタッグを組んだデュエットで、全米チャートで6週連続1位を記録するメガヒットとなりました。
軽快でソウルフルなリズム、息の合った掛け合いが楽しく、80年代ポップスの象徴ともいえる一曲です。

「Say Say Say」背景と制作エピソード

影響と意義: このコラボレーションにより、彼らのファン層がさらに広がり、異なる音楽スタイルの融合が評価されました。特に、当時の音楽シーンにおいて異なる世代のアーティストが協力するという新しいトレンドを示しました。

出会いとコラボレーションの始まり: ポール・マッカートニーとマイケル・ジャクソンの関係は、音楽業界での共通の知人を通じて始まったと言われています。最初にコラボレーションしたのは「The Girl Is Mine」(マイケルのアルバム「Thriller」収録)で、その成功を受けて「Say Say Say」が制作されました。

楽曲の制作: 「Say Say Say」は、1981年に書かれ、ポールとマイケルがロサンゼルスのスタジオで一緒にレコーディングを行いました。ポールの妻、リンダ・マッカートニーもバックコーラスとして参加しました。共に楽曲のアイデアを出し合い、楽しく制作が進められたと言われています。

ミュージックビデオ: この曲のミュージックビデオは、脇明洞の村でのサーカスをテーマにしたコミカルなストーリーで、二人が詐欺師に扮して旅をする様子を描いています。ビデオは非常に人気を博し、MTVでも頻繁に放映されました。
https://www.youtube.com/watch?v=aLEhh_XpJ-0

リリースと反応: 1983年にリリースされると、すぐにビルボード・ホット100チャートで1位を獲得し、6週間に渡ってその座を維持しました。国際的にも成功を収め、ポップカルチャーの象徴的なコラボレーションの一つとなりました。
アメリカ(ビルボードHot 100チャート): 1983年5月28日の週に、No.1を獲得し、6週間にわたりトップに留まりました。

イギリス(UKチャート): これもかなり成功し、最高位はNo.2でした。

その他の国々: オーストラリア、カナダ、ドイツなどでもトップ10入りを果たし、国際的に非常にヒットしました。


3. The Man(with マイケル・ジャクソン)

もうひとつのマイケルとの共作。
「Say Say Say」と比べるとやや落ち着いた雰囲気で、ポールとマイケルが**“人生で大切なものは何か”**を歌い上げるスピリチュアルなナンバー。


4. So Bad

甘く切ないバラードで、ポールの高音ヴォーカルが美しく響く一曲。
「It feels so bad, loving you」といった恋する苦しみを描いた、ソフトで耳馴染みの良い名曲。


5. Through Our Love

アルバムの最後を飾る、壮大なラブソング。
ジョージ・マーティンによるストリングスアレンジが荘厳で、**“愛の力で世界は変わる”**という理想が詰まっています。
静かなクライマックスとして、アルバム全体の“平和と調和”のテーマを締めくくる役割を担っています。


🎼 その他の楽曲と音楽的挑戦

  • Average Person:ユーモラスな語り口で、平凡な人々の人生を讃えるミュージックホール風ナンバー。
  • Hey Hey:スタンリー・クラークと共演したファンク・インストゥルメンタル。
  • Keep Under Cover:スリリングな展開と緻密な構成が楽しい、隠れた佳作。

📊 評価とその後の影響

『Pipes of Peace』は前作ほどの批評的評価は得られなかったものの、ポールのポップ職人としてのセンスを改めて示した作品として商業的には大成功。
特に「Say Say Say」は、80年代のマイケル人気と合わさって時代を象徴するコラボとなりました。

また、“戦争と平和”を意識したコンセプトと、ビートルズ時代から続く“愛と平和”のメッセージが随所に盛り込まれており、
ポールのスタンスを再確認できる作品としても重要です。


🎯 まとめ:ポールの“ポップな良心”が息づくハーモニーの結晶

『Pipes of Peace』は、前作の影に隠れがちですが、ポール・マッカートニーの“平和主義者としての顔”と“ポップス職人としての手腕”が融合した名盤です。
一流アーティストとの共演や、時代にフィットしたアレンジ、そして何より聴き手の心を癒す音楽の力が詰まっています。

アルバム未収録の注目シングル(1982〜1984)


1. Rainclouds(1982年、「Ebony and Ivory」B面)

ジョン・レノンの死後、喪失感の中で書かれたとされる曲。
アイリッシュ・トラッド調の哀愁を帯びたフォークロックで、ポールにしては珍しく“土臭い”テイスト。
地味ながら深い味わいがあり、アルバム未収録なのが惜しまれる隠れた佳曲です。


2. I’ll Give You a Ring(1982年、「Take It Away」B面)

オールドタイミーな雰囲気のラブソング。
1950年代風のスウィング感とポールの甘い歌声が心地よく、まるで『Honey Pie』(ビートルズ時代)を思わせるノスタルジックな仕上がり。
とても親しみやすく、B面だけにしておくにはもったいない一曲。


3. Ode to a Koala Bear(1983年、「Say Say Say」B面)

その名の通り、コアラを愛でる微笑ましい楽曲
シンセとピアノを中心とした優しいメロディで、ポールらしいユーモアと動物愛にあふれた小品。
日本盤などでは人気が高く、コレクターズ・アイテムとしても有名。


4. Twice in a Lifetime(1985年、映画主題歌)

1985年の同名映画のために書き下ろされたバラードで、
成熟したメロディと抑えたアレンジが際立つ大人向けの一曲
シングルとしてリリースされたが、アルバムには収録されず長らく埋もれた存在に。ポールのバラードセンスを改めて感じさせてくれます。


🎯 まとめ:名盤の“外側”にもポールの珠玉の音楽がある

『Tug of War』『Pipes of Peace』という名盤が並ぶこの時期、
その“B面”や“非アルバム曲”には、ポール・マッカートニーの遊び心、実験性、そしてサービス精神が豊かに息づいています。
ポップスの表舞台に立ちながらも、しっかりとファンの耳元に語りかけるような音楽を忘れなかったポールの姿が、こうした未収録曲に現れています。


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