
ポール・マッカートニー『Tug of War』——喪失と再出発、80年代ソロの頂点

01. タッグ・オブ・ウォー
02. テイク・イット・アウェイ
03. サムバディ・フー・ケアーズ
04. ホワッツ・ザット・ユアー・ドゥーイン
05. ヒア・トゥデイ
06. ボールルーム・ダンシング
07. ザ・パウンド・イズ・シンキング
08. ワンダーラスト
09. ゲット・イット
10. ビー・ホワット・ユー・シー
11. ドレス・ミー・アップ・アス・ア・ラバー
12. エボニー・アンド・アイヴォリー
リリース背景と時代の空気
『Tug of War』は1982年4月に発表された、ポール・マッカートニーのソロ名義では3作目のアルバム。
ウイングスの事実上の解散、そして**盟友ジョン・レノンの死(1980年12月)**を経たポールが、“再出発”の意志を込めて作り上げた作品です。
本作では、かつてのビートルズの名プロデューサー、ジョージ・マーティンを迎えて制作。
その結果、洗練されたサウンドと構成力、ポールの成熟したソングライティングが高次元で融合した、80年代ポールの最高傑作とも言える一枚に仕上がりました。
🎧 代表曲と楽曲レビュー
1. Tug of War
アルバムのタイトル曲で、シングルもリリース。冒頭には1980年12月7日、友人たちによる綱引き大会のリアルな声が流れる—おすすめ度⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
アルバムの表題曲であり、**人生や世界の対立・葛藤(tug of war)**を静かに語る壮大なナンバー。
美しいストリングスアレンジとともに、ポールの“平和への願い”がじわじわと胸に染みる名曲です。
ジョージ・マーティンのアレンジも極めて秀逸。
「あの日、John(Lennon)が亡くなった翌日の出来事だった」 (ウィキペディア, The Paul McCartney project)
ソフトロックにオーケストラが映える構成は「Johnへの想いと世界の葛藤へのメッセージ」(Rolling Stone) 。
2. Take It Away
シングルとしてリリースされ、ポップ・ロックで米10位・英6位を記録したポップ・ナンバー。
エリック・スチュワート(10cc)やリンゴ・スターも参加しており、ノリの良いメロディと爽やかなコーラスが印象的。
コード進行もオシャレでポールらしい軽快さが際立つ一曲。
3. Somebody Who Cares
穏やかなアコースティック・バラード。しっとりとした歌声が直接心に響くシンプルで優しい仕上がり。
4. Dress Me Up as a Robber
スペイン風リズムを導入したアッパーなロック・チューン。Wings時代に構想されたという説もあり、軽やかな遊び心が光る一曲 。
5. What’s That You’re Doing?
Stevie Wonderと共演した7分超のファンク・ジャム。McCartneyも語るには:
「Tom Frangioneとのインタビューで、“funky、really funky!”って自分でも言ってたね(笑)」 (ウィキペディア, SiriusXM)
クラビネットがぐいぐい引っ張る豪快なグルーヴ感。
6. Here Today
ジョン・レノンへの追悼曲。
アコースティックギター一本で綴られるそのメロディは、ポールの素直な心情がそのまま音になったような深い感動を呼ぶ。
“今君がここにいたら、なんて言うだろう?”という問いかけに、ポールの愛と後悔と尊敬が込められています。
McCartneyは語る:
「悲しくて、スタジオから帰っても言葉が出なかった。でもギターで開けたドアから自然と歌が出てきたんだ」
キーウェストのモーテルでの“夜泣き”を歌った歌詞は全英No.46入り 。
7. Ballroom Dancing
軽快なリズムとホーンが交差するダンサブルなナンバー。80年代ポップ的な楽しさが前面に出た一曲。
8. The Pound is Sinking
通貨ポンドの不安定さを歌った社会風刺曲。プロデュースにはGeorge Martinらしい明解なサウンド設計が光る 。
9. Wanderlust
タイトルはヨット名が由来。マッカートニー曰く:
「自由を感じたくて、“Wanderlust”って名の船で漂ったんだ」 (ウィキペディア)
心の開放感を象徴するリリカルなバラード。
10. Get It (with Carl Perkins)
ロカビリー・デュエット。Perkinsとの即興的なやり取りが楽しく、軽快さと遊び心が弾ける。
11. Be What You See (Link)
インタールード的な短尺曲。気分転換としてアルバムの流れにユーモアと休息をもたらす。
12. Ebony and Ivory (with Stevie Wonder)
米国で7週連続1位を獲得した大ヒット曲。“黒鍵と白鍵がともに美しい音楽を奏でるように、人種も手を取り合うべき”という明快なメッセージを掲げたデュエット曲。
全米・全英ともに1位の大ヒットとなり、ポールの政治的・社会的スタンスを象徴する楽曲としても評価されました。
スティーヴィーとのハーモニーは温かく、親しみやすいサウンドも◎。
📊 評価と意義
『Tug of War』は、ビートルズ解散後のポール作品として初めて、音楽的にも精神的にも“成熟”を感じさせるアルバムとされ、
ローリング・ストーン誌は「ポールのキャリアにおいて極めて重要なターニングポイント」と高く評価しています。
喪失と和解、対立と調和。
タイトルの「Tug of War(綱引き)」が象徴するように、このアルバムは外の世界と内なる心の綱引きを音楽で描いた作品です。
🎯 まとめ:過去を超え、未来へ向かう音楽の再起動
『Tug of War』は、ただの追悼や回顧ではなく、ポール・マッカートニーというアーティストが、ジョンを失った現実を乗り越え、再び歩き出す意志を示したアルバムです。
ビートルズの影と向き合い、ソロとして音楽的頂点を極めたこの作品は、80年代ポールの到達点であり、次なる飛躍への布石でもあります。

















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