
『ヤァ!ブロード・ストリート』——ビートルズの影を再構築した音楽映画とそのサウンドトラック

📖 作品の背景と企画意図
『ヤァ!ブロード・ストリート』は、ポール・マッカートニーが自ら脚本・主演・音楽を手がけた1984年の音楽映画です。
映画は“もしレコーディング・マスターが盗まれたら?”という虚構のストーリーを軸に、ポールの音楽と妄想世界を映像化した作品で、
現実と幻想、回想が入り混じる実験的構成になっています。
共演には妻リンダ・マッカートニーやリンゴ・スター、ジョージ・マーティンも音楽プロデュースで参加。
映画の評価は賛否両論でしたが、そのサウンドトラックにはビートルズ~ソロの名曲の再録を含む豪華な楽曲群が詰まっています。

🎧 サウンドトラック注目曲レビュー
1. No More Lonely Nights
サウンドトラックのリードシングルにして最大の成功曲。
美しいバラードにデヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)のギターが加わった壮大な名曲で、全英チャート2位、全米6位のヒットを記録。
孤独を歌いながらも、どこか前向きなポールの感性がにじむ楽曲であり、今なお人気の高いバラードです。
2. Yesterday / Here, There and Everywhere / Eleanor Rigby / For No One(再録)
ビートルズ時代の名バラード群をジョージ・マーティンの指揮のもと、美しく再構築。
特に「For No One」の抑えた語り口は、年月を重ねたポールの成熟が感じられます。
新録音によりクリアになった音像は、**“ポールによるセルフ・トリビュート”**と捉えることもできます。
3. Silly Love Songs(再録)
ウイングス時代のヒットをややテンポを落としたバージョンで再録。
よりファンキーで都会的なアレンジに変化しており、80年代の音作りとの融合が試みられています。
4. Ballroom Dancing(再録)
もともとは『Tug of War』のアウトテイク。
ビートルズ後期を思わせる英国ミュージックホール的テイストが全開の楽曲で、エネルギッシュなアレンジに生まれ変わっています。
5. Wanderlust(再録)
原曲に忠実ながら、映画のシーンとリンクした演出が施されたバージョン。
本作の中心的なメッセージでもある“音楽と自己再生”を象徴するような存在感を放っています。
6. Goodnight Princess(インストゥルメンタル)
映画のエンディングに流れる、1940年代風のスウィング・インスト曲。
ポールの趣味性が光る1曲で、映像とともに味わうとより効果的。
🧩 映画としての評価とサウンドトラックの意義
映画『ヤァ!ブロード・ストリート』は、ストーリー展開の弱さや自己満足的な構成が批判されましたが、
一方で、ポールの音楽をヴィジュアル化した意欲作として一定の評価を受けました。
サウンドトラックとしては、
- ビートルズ・ウイングス・ソロの名曲を再評価する機会となったこと
- “No More Lonely Nights”という新たな代表曲を生んだこと
から、音楽的には非常に価値のある1枚とされています。
🎯 まとめ:懐古と再生、そして実験の交差点に立つサウンドトラック
『ヤァ!ブロード・ストリート』は、ポール・マッカートニーが自らのキャリアを“映像と再録音”によって再構成しようとした作品です。
商業的には映画の失敗という評価もありますが、ポールの音楽世界を追体験できるアルバムとして、多くのファンに支持されています。

















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