
『Press to Play』――時代の波に挑んだ、ポール・マッカートニーの“再起動”アルバム

📅 時代背景と制作の方向性
『Press to Play』は1986年8月にリリースされた、ポール・マッカートニーの通算6作目のソロ・アルバム。
1980年代半ば、MTV文化の隆盛、シンセポップと電子サウンドの急成長の中で、ポールも新時代に対応した“音の刷新”を図ろうとします。
プロデューサーには、10ccのエリック・スチュワートに加え、**トレヴァー・ホーン(Yes、Frankie Goes to Hollywood)**などのモダンな音楽人を起用。
それまでのポールとは異なる、テクノロジー志向・シャープで現代的なサウンドが前面に出た作品となりました。
🎧 主要トラックレビュー
1. Stranglehold
アルバムの冒頭を飾る、ジャジーなブラスとクールなグルーヴが印象的な楽曲。
エリック・スチュワートとの共作で、リズム主体の構成は当時のAOR~シンセポップに寄せたアプローチ。
ポールの新機軸を宣言するようなスタートです。
2. Good Times Coming / Feel the Sun
2部構成のメドレー形式。前半はレイドバックした80’sポップ、後半は陽光を感じさせるリリックとコード進行で、構成力の妙が光る。
隠れたファン人気の高い一曲です。
3. Talk More Talk
ボコーダーやSEを大胆に導入したサウンド・コラージュ的楽曲。
リズムトラックが際立ち、MTV世代を意識した実験性が見られます。ポールの“ポップの職人”としての枠を超える試み。
4. Press(シングル)
アルバムのタイトルにもなったリードシングル。
明るくポップなエレクトロポップで、“Play”のボタンを押して、新しいポールを始めようという意図が込められた一曲。
全米チャート21位を記録。ミュージックビデオでは、地下鉄に乗るポールの姿も話題に。
5. Pretty Little Head
幻想的かつ未来的なサウンド。80年代後半のアートポップのような雰囲気で、シンセと効果音を駆使した新しいアレンジに挑戦。
賛否は分かれるものの、ポールの冒険心がよく表れています。
6. Only Love Remains
バラード系の中で最も評価が高い一曲。
ピアノとストリングスを軸にしたオーソドックスな美しさが際立つラブソングで、後期ビートルズ的な響きを残す作品。
ライブでもたびたび演奏される人気曲です。
7. Move Over Busker / However Absurd
アルバムの後半には、奇抜なアレンジの中にポールらしいメロディラインが現れる。
「However Absurd」は映画音楽的なスケール感を持ち、アルバムをドラマティックに締めくくる。

評価と再評価
リリース当時、『Press to Play』は商業的には期待を下回る結果となり、ビートルズ時代からのファンの多くは戸惑いました。
しかし、時代に挑む姿勢や、アーティストとしての柔軟性・実験性を評価する声もあり、
近年では「80年代ポールの中で最も野心的な作品」として再評価が進んでいます。
🎯 まとめ:ポール・マッカートニーの“第二のチャレンジ”を刻んだ革新作
『Press to Play』は、単なるポール流ポップスの延長ではなく、“新しい音”を模索したマイルストーンです。
商業的な成功は掴めなかったものの、ポールの音楽的冒険と柔軟性、そして“変わる勇気”が刻まれた作品として大きな意味を持ちます。

















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