勝手にディスクガイド〜ポール・マッカートニーソロ編

ポールマッカートニーのソロ作品を中心に彼のビートルズ以降の動きを振り返っていく特集です。未聴の作品があれば是非!これを機会にトライしてみてください。

『Off the Ground』——90年代初頭、ポール・マッカートニーの“優しき成熟”


背景と制作意図:ワールドツアー後の地に足のついた再出発

『Off the Ground』は1993年2月にリリースされた、ポール・マッカートニーのソロ名義による9作目のアルバム。
1989年の『Flowers in the Dirt』で復活を遂げ、大規模なワールドツアー(89〜90年)を成功させたポールが、
新たなバンドメンバーとともにスタジオ入りし、“バンドの一体感”を意識して録音された作品です。

プロデューサーには引き続きジョージ・マーティンではなく、ジュリアン・メンデルソンを起用。
打ち込みやテクノロジー偏重だった80年代とは異なり、より自然体のアナログサウンド、メッセージ性のあるリリックが目立つ構成になっています。


🎧 主要トラックレビュー


1. Off the Ground
お気に入り度⭐️⭐️⭐️

アルバムのタイトル曲で、リズミカルなギターリフと穏やかなヴォーカルが心地よい。
「僕らは地に足をつけて歩いていける」と歌う内容は、ポール自身の新たな足取りの宣言とも取れます。


2. Hope of Deliverance
お気に入り度⭐️⭐️⭐️

このアルバムで最もヒットした楽曲。特にヨーロッパや南米で大人気となり、スペイン語圏ではアンセムのような扱いに。
フォーキーで親しみやすく、平和と癒しへの願いが込められたポールらしい佳作。


3. Mistress and Maid(エルヴィス・コステロとの共作)
お気に入り度⭐️⭐️⭐️

『Flowers in the Dirt』セッションで生まれたが、ここで正式に採用された。
社会風刺的な内容で、裕福な女性と召使いという立場の違いに潜む虚構と人間性を描いた作品
コステロらしい皮肉と、ポールのメロディが絶妙に融合。


4. The Lovers That Never Were(コステロ共作)
お気に入り度⭐️⭐️⭐️

これも前作からの“再録”。ピアノとストリングスが主役の劇的で切ないバラードで、
共作曲の中でも特にレノン=マッカートニー的な構造を持つ楽曲。
エモーショナルなポールの歌唱が際立っています。


5. C’Mon People
お気に入り度⭐️⭐️⭐️⭐️

アルバムのハイライトともいえる壮大なナンバー。
「さあ立ち上がろう、手を取り合おう」というユニバーサルなメッセージは、ポールの信条の核心ともいえる。
間奏のコード進行やスケール感には、『Hey Jude』のエッセンスも感じられます。


🌿 その他の注目曲とB面の豊かさ

  • Golden Earth Girl:優しく幻想的なバラード。リンダへのオマージュとも解釈される
  • Biker Like an Icon:やや異色のロック・ナンバーで、ポールの遊び心が見える。
  • Peace in the Neighbourhood:穏やかなテンポで、理想的なコミュニティと平和への祈りを歌う。

また、この時期は**CDシングルのB面やリミックス集『The Complete Works』**などにも質の高い未収録曲が多く、
ファンからは“B面黄金期”とも称されることもあります(例:「Big Boys Bickering」「Long Leather Coat」など)。


🎤 ツアーとライブ活動

本作を引っさげての**“The New World Tour”(1993)**は、日本や南米を含む世界規模で展開。
ビートルズ〜ウイングス〜ソロの名曲をバランスよく織り交ぜたセットリストが話題を呼び、
のちのライブ活動のベースとなるスタイルが確立されました。


🎯 まとめ:優しさ、再出発、共にある音楽

『Off the Ground』は、奇をてらわず、等身大のポール・マッカートニーが音楽で語りかけてくるアルバムです。
80年代の試行錯誤を経てたどり着いたのは、仲間とのバンドサウンド、わかりやすく力強いメッセージ、そして心に残るメロディでした。

エルヴィス・コステロとの共作が残されたのも、この時期ならではの収穫。
“どこまでも優しく、でも確かな意志を持って進む”ポールの姿勢が、ここにしっかりと刻まれています。

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