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あの頃受けた影響は計り知れないですよね そんな音楽をとことん語るコーナーです。

2. ディープ・パープル ― ハードロック前夜の模索と野心(初期3部作)

リッチー・ブラックモアが世界的に知られるようになった最初の舞台は、もちろんディープ・パープルである。
ただし、一般的に“ハードロックの雄”として知られる第2期(『In Rock』以降)とは異なり、**初期3部作(第1期:1968〜1969)**ではまだ音楽性が定まらず、クラシカルなアプローチやサイケデリック、ポップ、バロックロック的実験が中心だった。

『Shades of Deep Purple』(1968)

デビュー作にして、最大のヒット曲「Hush」(ジョー・サウス作のカバー)を収録。
サイケデリックな雰囲気とクラシカルな装飾音が目立つ本作では、ブラックモアのギターは
まだ“爆発”していないものの、控えめながらも鋭いリフと音色の選択に職人芸を感じることができる。

収録曲 (代表的なもの):

  1. And the Address
  2. Hush
  3. One More Rainy Day
  4. Prelude: Happiness / I’m So Glad
  5. Mandrake Root
  6. Help! (The Beatlesのカバー)
  7. Love Help Me
  8. Hey Joe (Billy Robertsのカバー、Jimi Hendrixのバージョンも有名)

聴きどころ:「Hush」の衝撃!

  • DEEP PURPLE「Hush」- 紫の衝撃、その始まりを告げたサイケデリック・アンセム
  • 1968年、世界がサイケデリック・ロックの渦に包まれていた時代。後にハードロックの巨星として君臨することになるDEEP PURPLEが、その第一歩を力強く踏み出した記念すべきシングルが「Hush」だ。この曲は、彼らが後に確立する重厚なハードロックサウンドとは趣を異にするものの、バンドの持つ非凡な才能の萌芽を確かに感じさせる、鮮烈な一撃だった。
  • カバー曲から生まれたバンドの代名詞
  • 「Hush」は、元々アメリカのシンガーソングライター、ジョー・サウスが1967年に発表した楽曲である。しかし、DEEP PURPLEのバージョンは、原曲のブルージーな雰囲気を残しつつも、よりサイケデリックで高揚感あふれるアレンジが施され、全く新しい生命を吹き込まれたと言えるだろう。
  • 特筆すべきは、ジョン・ロードによるハモンドオルガンの躍動感あふれるプレイだ。イントロから鳴り響く印象的なリフは一度聴いたら忘れられないキャッチーさを持ち、曲全体をリードしていく。彼のクラシック音楽の素養を感じさせる華麗なフレーズと、ロックのダイナミズムが見事に融合し、初期DEEP PURPLEサウンドの核となった。
  • そして、初代ヴォーカリストであるロッド・エヴァンスの歌声も、この曲の魅力に大きく貢献している。彼の甘くメロウでありながらも、どこかミステリアスな響きを帯びたヴォーカルは、サイケデリックな楽曲の世界観に完璧にマッチしていた。ニック・シンパーのドライヴするベースライン、イアン・ペイスの的確かつパワフルなドラミング、そしてリッチー・ブラックモアのまだ荒削りながらも才能の片鱗を見せるギタープレイも、この曲を特別なものにしている。
  • アメリカでの成功とバンドの夜明け
  • 「Hush」は、本国イギリスでは大きなヒットにはならなかったものの、アメリカのビルボードチャートで4位という大成功を収める。この成功は、まだ無名に近かったDEEP PURPLEにとって、大きな自信と国際的な認知度をもたらす重要なターニングポイントとなった。彼らはこの曲を引っ提げてアメリカツアーを行い、その実力をライブシーンでも証明していくことになる。
  • 当時の音楽シーンは、ビートルズやローリング・ストーンズといったブリティッシュ・インヴェイジョンの波が一段落し、よりヘヴィで実験的なサウンドが台頭し始めていた時期。そんな中で「Hush」は、ポップな親しみやすさとサイケデリックな斬新さを併せ持つ楽曲として、多くのリスナーに受け入れられた。
  • ハードロックへの布石
  • もちろん、この時期のDEEP PURPLEは、後に「ハイウェイ・スター」や「スモーク・オン・ザ・ウォーター」といったハードロックの金字塔を打ち立てるバンドとは音楽性が異なる。しかし、「Hush」の持つエネルギー、各メンバーの卓越した演奏技術、そして何よりも聴く者を引き込む楽曲の力は、彼らがただのポップバンドではないことを明確に示していた。
  • 特にリッチー・ブラックモアのギターは、この曲ではまだ前面に出てくることは少ないものの、随所で閃きを感じさせるフレーズを聴かせている。後の彼の攻撃的でテクニカルなスタイルを予感させるには十分だ。
  • 色褪せない魅力
  • 「Hush」は、DEEP PURPLEの長いキャリアの中でも初期の代表曲として、今なお多くのファンに愛され続けている。ライブでも度々演奏され、その度にオーディエンスを熱狂させるキラーチューンだ。サイケデリックな時代の空気感を見事に捉えながらも、普遍的なポップセンスを失わないこの曲は、まさにDEEP PURPLEというバンドの非凡な才能を世に知らしめた、記念碑的な一曲と言えるだろう。
  • 後のハードロック路線とは異なる魅力を持つ「Hush」だが、そこには確かに「紫の衝撃」の原点が詰まっている。DEEP PURPLEを語る上で、決して外すことのできない名曲である。
  • 「Mandrake Root」:ライブでのギター即興の源流。
  • 「HELP!」:なんとビートルズのカバー曲が入っています。おそらくいろんな方向性を探っている時期であった一つの証拠として貴重なトラックであります。

●『The Book of Taliesyn』(1968)

短期間で制作された2ndアルバムは、より幻想的かつバロック的な音作りが印象的。
クラシックとロックを融合させようとする野心が随所に見られ、ブラックモアの“クラシック・メタル”の原点が垣間見える一枚。

聴きどころ:

  • 「Wring That Neck」:インストでのギターとオルガンのバトル。ライブで進化を遂げる。
  • 「Anthem」:バロック音楽のモチーフを取り入れた壮大な展開が新鮮。

●『Deep Purple 2』(1969)

第1期の最終作にして、ハードロックの胎動が最も強く感じられるアルバム。
コンセプチュアルな構成と実験性が共存しており、クラシカルな構造とロックの
重厚さの間で揺れるサウンドは“黎明期のプログレッシブ・ロック”とも言える。

聴きどころ:

  • 「April」:ブラックモアとジョン・ロードによるクラシック音楽的なコラボレーション。13分を超える大作。
  • 「Chasing Shadows」:アフリカン・リズムを取り入れた冒険的なリズムアプローチ。

初期3部作の意義

この3作品は、後の“ディープ・パープルらしさ”とは一線を画しているが、
ブラックモアが自身のギターサウンドを模索し、同時にロックにクラシックの美学を持ち込もうとしていた軌跡として重要である。
彼の“様式美”志向や“即興へのこだわり”が、すでに種として宿っていたことがはっきりと感じられる点が面白い。

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