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あの頃受けた影響は計り知れないですよね そんな音楽をとことん語るコーナーです。

The Power Station 『The Power Station』(1985)音楽レビュー

  1. Some Like It Hot
  2. Murderess
  3. Lonely Tonight
  4. Communication
  5. Get It On (Bang a Gong)
  6. Go to Zero
  7. Harvest for the World
  8. Still in Your Heart

1995.05.31 発売 ¥1,869(税込)/WPCR-50055


――ポップの最前線から飛び出したロックの熱量

1980年代初頭、デュラン・デュランはイギリスから世界の音楽シーンを席巻したニュー・ロマンティックの代表格だった。ファッション性と映像感覚を重視した先鋭的なMTV戦略で、ロック・スターの新しいあり方を提示したデュラン・デュラン。しかしその栄光の裏で、バンド内部には多忙による疲弊と音楽的な方向性の模索が生まれつつあった。

そんな中で生まれたのが、メンバーのジョン・テイラー(Ba)、アンディ・テイラー(G)による「パワーステーション」だ。ボーカルにはロバート・パーマーを迎え、ドラムには元シックのトニー・トンプソンを起用。ロックとファンクを強力に融合させたサウンドは、デュラン・デュランのイメージとは一線を画す肉体的で重量感あるものだった。まさに彼らの“ハードエッジな欲望”が結実したプロジェクトと言える。

アルバム『The Power Station』は1985年3月に発表され、当時アメリカで席巻していたMTV世代にストレートに響いた。シングル「Some Like It Hot」は全米6位、タ・レックスのカバー「Get It On(Bang a Gong)」も9位を記録。アルバム自体も全米チャート12位、全英チャート12位と商業的にも成功を収めた。

この時代、音楽シーンにはプリンスやマドンナ、ワム!などダンス・ポップのヒットが溢れていた一方で、ヴァン・ヘイレンやボン・ジョヴィといったハードロックも人気を獲得しており、まさにジャンル横断的なムードが支配していた。パワーステーションのように、黒人音楽のファンク・グルーヴと白人ロックのギターを融合させた音は、そんな1985年の空気を象徴するクロスオーバーだったとも言える。

また本作は、メンバーにとっての自由な実験の場であると同時に、デュラン・デュランがポップ・アイコンとして築いたイメージを壊さずに“別の顔”を見せるチャンスでもあった。重厚なリズムと艶めかしいロバート・パーマーのボーカルの相性は抜群で、当時の音楽ファンには強烈なインパクトを与えた。結果的にパワーステーションはスーパーバンドの先駆けのひとつとなり、その後のロック界に“サイドプロジェクト”の可能性を広げる影響を残した。

ハードでありながらダンサブル、洗練されながら生々しい――そんな80年代らしい二面性を体現した『The Power Station』。時代の熱量と才能の化学反応が作り上げたこの一枚は、今も色褪せない80’sクロスオーバー・ロックの金字塔である。


曲ごとのレビュー

1. Some Like It Hot

このプロジェクトを象徴する看板曲。ヘヴィでメタリックなギターリフと、トニー・トンプソンのタイトで分厚いドラムが猛烈にドライブする。ロバート・パーマーのセクシーで熱量の高いボーカルが「熱いのが好きだろ?」と挑発してくる感覚が最高に80年代的。ダンスもロックも呑み込むパワーステーションの真骨頂。


2. Murderess

ファンク色をさらに押し出したナンバー。ベースが重厚にうねり、グルーヴの上でアンディ・テイラーのギターが鋭く切り込む。都会的でサスペンスフルなムードが漂い、サビのフックの強さも秀逸。ややダークでシニカルな歌詞世界も魅力的だ。


3. Lonely Tonight

やや落ち着いたトーンの楽曲だが、それでもパワフルな演奏は健在。ミッドテンポでロマンティックな質感があり、ロバート・パーマーの艶のある声質がとても生きる。80年代流儀の“哀愁ロック”ともいえるナンバー。


4. Communication

ストレートなロックのエネルギーに満ちた楽曲。イントロから繰り出されるギターのリフがとにかくキャッチーで、ベースとドラムが作るグルーヴは盤石。バンドの結束感がもっとも感じられる曲で、ライブ映えしたことも容易に想像できる。


5. Get It On (Bang a Gong)

グラムロックの金字塔、タ・レックスのカバー。原曲のグルーヴ感を尊重しながらも、よりヘヴィで分厚い音像に仕上げたのはパワーステーションらしいアレンジ。原曲の妖艶さをさらに肉感的に進化させた好カバーで、ロバート・パーマーの歌唱も堂に入っている。


6. Go to Zero

イントロの軽快なギターカッティングとファンク風のリズムが印象的。アルバムの中では一番軽やかに感じる曲だが、それでも骨太なリズム隊が支えるから芯の強さがある。エネルギッシュでポジティブな印象を残す。


7. Harvest for the World

アイズレー・ブラザーズのソウル・クラシックのカバー。パワーステーション流にロックアレンジしつつも、原曲のメッセージ性や温かみを崩していないのが見事。ファンク〜ソウルをバックボーンに持つトニー・トンプソンのドラミングがここでも冴えわたる。


8. Still in Your Heart

アルバムを締めくくるにふさわしい哀愁のあるバラード。アコースティックな要素も取り入れた柔らかな響きが印象的で、バンドの幅広い表現力を感じさせる。ロバート・パーマーの情感豊かなボーカルが胸に迫る名曲。


総評

  • デュラン・デュランの華麗なポップ像から飛び出した硬質でグルーヴィーなロック
  • 豪華メンバーの個性が衝突しながらも絶妙にかみ合った化学反応
  • 80年代のクロスオーバー感覚を体現したタイトでスタイリッシュな作品

といった位置付けで、80’sロックファンには必聴の一枚だと思います。


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