
2. ディープ・パープル ― ハードロックの金字塔(第2期:1970〜1973)
ヴォーカルにイアン・ギラン、ベースにロジャー・グローヴァーを迎えたことで、ディープ・パープルは一気に覚醒する。この第2期こそが「ハードロック元年」と呼ばれる時代を切り開き、ブラックモアのギターはついに“爆発”する。
荒々しく、重厚で、時に美しく――クラシックの構築性とロックの攻撃性が融合した、唯一無二のブラックモア・サウンドがここに確立された。
●『Deep Purple in Rock』(1970)

【収録曲】
1.Speed King
2.Bloodsucker
3.Child in Time
4.Flight of the Rat
5.Into the Fire
6.Living Wreck
7.Hard Lovin’ Man
<全曲レビュー>
1. Speed King
強烈なオープニングで聴き手の心をわしづかみにする一曲。ギターとオルガンによる交錯するリフ、パワフルなドラムが全開で走り出し、Gillanが50年代ロックへのオマージュと情熱的なボーカルを融合させています。イントロの幻想的な“Woffle”が曲に緊張感を与え、即座にロックの声明を打ち立てる構成です。
2. Bloodsucker
重厚なグルーヴ感に満ちたハードロック。Gillanのヴォーカルが圧巻で、BlackmoreとLordによるギターとオルガンソロの掛け合いが光ります。リズム隊も強固で、演奏の完成度が非常に高い一曲です。
3. Child in Time
アルバムの頂点ともいえる、10分を超える大作。静かなオルガン導入から徐々に盛り上がり、Gillanの叫びが悲痛さを増す中でBlackmoreが叙情的かつ激情的なギターソロを展開。テーマは冷戦への不安と人間性の問いで、演奏と構成の両面で深い感動を呼びます。
4. Flight of the Rat
エネルギッシュなリフと荒々しいオルガンが特徴のロック・チューン。ライブの即興性と爆発力をそのままスタジオに持ち込み、Paiceのドラムソロが曲を締めくくるバンドの力強さが際立っています。
5. Into the Fire
ややスローテンポで沈み込むような深みのあるナンバー。Gloverによるドラッグへの警告を込めた歌詞と、Blackmoreの幻想的なギターソロが印象的。硬質な空気感が同時代のクリムゾンなどのプログレ色も感じさせます。
6. Living Wreck
Paiceのドラムが軽快に切り出し、Lordの“猫のようにしなやか”なオルガンサウンドが曲に妖しさを帯びさせます。Gillanは抑え気味ながら感情を込めた歌唱で、バンド全員の表現力が融合したナンバーです。
7. Hard Lovin’ Man
Gloverのベースリフをもとにスタートしたジャム風楽曲。Lordのオルガンが狂気じみた熱を帯びる中、ギターとヴォーカルが混沌とした迫力を演出。曲全体がクライマックスへと突き進む、ダイナミックかつ劇的な大団円です。
まとめ:『In Rock』の真価
このアルバムは、第2期ラインナップによるDeep Purpleの覚醒であり、演奏のエネルギーと構成の緻密さが見事に融合した傑作です。バンド全員の個々の才能がぶつかり合いながらも、ひとつの音世界を形作っている点が最大の魅力。ハードロック/ヘヴィメタルの黎明期を代表する作品として、リスナーの魂を揺さぶり続ける力を持っています。
●『Fireball』(1971)

【収録曲】
オリジナル・ヨーロッパ盤(代表的フォーマット)
01.Fireball
02.No No No
03.Demon’s Eye (ヨーロッパ盤) / Strange Kind of Woman (米・加・日本など)
04.Anyone’s Daughter
05.The Mule
06.Fools
『Fireball』とは?
『Fireball』は、マークIIラインナップによる5枚目のスタジオ作で、1971年7月(米)/9月(英)にリリースされました。英国をはじめ複数のヨーロッパ諸国でチャート1位を記録し、バンドの商業的成功を確固たるものにしました。録音は1970年9月から1971年6月にかけてロンドンおよびコーンウォール地方で断続的に行われ、忙しいツアー日程の合間を縫っての制作でした。
<全曲レビュー>
1. Fireball
アルバムの幕開けを飾るタイトル曲。冒頭の「ひゅーっ」という機械音は、クーラーの音を録音したものです。一説には「特製シンセ」だと語られたこともあります。ドラムには初登場のダブルバスドラムが使われており、ライブではロード準備中にセットするなど演出も斬新でした。歌詞はギランの“片想い”体験に由来するとされ、ハードでありながらどこか切実なロックチューンです。
2. No No No
ファンキーかつ重厚なリフが軸。ギランのヴォーカルはエッジが効きながらもしなやかで、曲全体に内省を帯びたクールな雰囲気を与えています。アルバムの中盤を締めくくる妙味があります。
3. Demon’s Eye (EU版) / Strange Kind of Woman (米版)
「Demon’s Eye」はゆったりとしたブルースのグルーヴとリフの絶妙なバランスが魅力。
一方、米盤やシングルには「Strange Kind of Woman」が収録され、Boogie調のリズム感とポップ性で英国チャート8位を記録しました。元のタイトルは「The Prostitute」でしたが、後にギランが「Strange Kind of Woman」と改めました。
4. Anyone’s Daughter
カントリーやフォークの要素を取り入れた異色作。ブラックモアがアル・リーのスタイルを目指したリフから発展した曲ですが、バンド自身も「アルバムに入れるのは楽しかったけれど、間違いだった」と認めるユーモアある逸品です。
5. The Mule
アイザック・アシモフの小説『ファウンデーションシリーズ』に登場するキャラクター「The Mule」に着想を得たインストゥルメンタル調の曲。パイエのドラムソロ展開曲としてライブでは人気を博し、まさにセッション的自由度の高い演奏が光ります。
6. Fools
静かなオルガンの導入から一気に爆発する展開がドラマチックな叙情ロック。ギランが“世界は愚か者に支配されている”という視点を歌詞に託し、ブラックモアのボリュームスウェルギターも印象的。即興性を残した構築で完成された感のあるナンバーです。
7. No One Came
おそらく人気の頂点に立った後、自分たちを誰も評価してくれなかったら…というギランの不安を象徴した歌詞。終盤にはループ音源や逆回転テープを使用した実験的な処理が施され、不気味さと創意工夫の合体が独特の余韻を残します。
時代背景と創作の意義
『Fireball』は、前作『In Rock』、続く『Machine Head』の狭間に位置する作品で、「実験性と商業性が入り交じる冒険作」として位置づけられます。録音期間が長く、ツアーに追われながらの制作であったため、統一感には欠けるものの、その多彩さこそが魅力となりました。ギランは「創造の可能性が開かれる契機だった」と語り、バンドにとって重要な転換点でした。ブラックモアはレーベルからの強いプレッシャーにより急ぎで作られたと振り返っています。
総評
『Fireball』はハードロックの熱とアート志向の実験がほどよく混じり合った貴重なカタログ。完成度よりも創作の息吹が感じられ、バンドが創造の渦中にいた証として今も色褪せません。技巧と遊び心、叙情と濃密さが交錯するこのアルバムは、Deep Purpleの奥深さを感じるには最良のドアでもあります。
●『Machine Head』(1972)

ブラックモアのキャリア、そしてハードロック史における金字塔。すべての曲が名曲と言えるレベルで、彼の“ギターヒーロー”としての地位を決定づけた作品。
全曲レビュー
1. Highway Star
疾走感たっぷりのオープニングナンバー。ブラックモアのクラシカルなギターソロとロードのオルガンソロが交錯し、疾走感と技巧が融合。ギランのボーカルも爆発力があり、ハードロックの新たな基準を示しました。
2. Maybe I’m a Leo
スローながら重量感あるブルースロック。グルーヴの底支えとしてPaiceのドラムが効いており、Gillanはあえて抑えた歌唱で曲のムードに貢献。Glover主導のリフは分厚く、曲全体に骨太な印象を与えます。
3. Pictures of Home
ドラムの鋭い導入とともに幕開けし、深く抑揚あるオルガンとギターが情緒的な空気を醸成。中間部にはGloverのベースソロが光り、構成力の高さが際立つ、濃密な1曲。
4. Never Before
軽快なファンク風イントロから続くリフ主導のロックナンバー。シンプルながらも洗練された構造で、アルバムの合間にちょうどいい“クールダウン”にもなるリズミックな一曲。
5. Smoke on the Water
Rockを代表する名リフとそのストーリー性(モントルー・カジノの火災)が融合した象徴的な名曲。オーディエンスを即座に引き込む力と、語りかけるような歌詞が強烈な説得力を持ちます。
6. Lazy
ブルージーでありつつ、どこかジャジーな抑揚を感じさせる典型的なブギーナンバー。オルガンが妖艶に響き、ギターやハーモニカが味付けを加える構成的にも濃厚な代表曲です。
7. Space Truckin’
キャッチーなリフと軽快なグルーヴが爽快な締めくくり。もともと“Batmanのテーマ”に発想を得たリフが起源で、歌詞も“宇宙旅行”というファンタジックなモチーフが楽曲に遊び心を添えています。
総括:『Machine Head』の魅力とは?
このアルバムは、技巧と熱量の融合が素晴らしいバランスで実現されており、どの曲も各自の個性を保ったまま有機的に結びついています。演奏の密度、構成力、即興性――そのすべてが一体となり、ハードロック/ヘヴィメタルの不朽の名作として、今なお色あせることなく輝き続けています。
●『Live in Japan』(1972/ライブ盤)

ロックライブ史に残る歴史的名盤。スタジオ音源では味わえないブラックモアの即興性と破壊力が全開。ギターの“感情”を音にする力が、これほどまでにリアルに記録された作品は少ない。
聴きどころ:
- 「Strange Kind of Woman」:ギターとヴォーカルの“コール&レスポンス”は鳥肌もの。
- 「Space Truckin’」:20分超の即興演奏。ブラックモアがまるで一つの宇宙を作り上げていく。
第2期の意義
この時期こそが、ブラックモアのギタリストとしての創造力と情熱が最も燃え上がった時代であり、彼の名前がロックの歴史に刻まれるきっかけとなった。
技巧と感情、秩序と混沌を自在に操るそのプレイは、今なおギタリストのバイブルである。

















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