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あの頃受けた影響は計り知れないですよね そんな音楽をとことん語るコーナーです。

集中連載「プリンスを語ろう!」Vol.01

1stアルバム「For You」という衝撃

――Princeは、最初から完成していたのか?


「プリンスって、結局なにがすごいんですか?」

あまりに有名で、
あまりに語られすぎて、
いつの間にか“説明不要の天才”として片付けられてしまった存在――
Prince。

でも、本当にそうだろうか。
名盤、奇行、カリスマ、神話。
そうしたイメージの奥にある音そのものは、
ちゃんと聴かれ、ちゃんと語られているだろうか。

そこで今回は、形式ばった評論も、結論ありきの解説も一度横に置いて、
「いま改めて、プリンスを語るなら?」
という問いから、この連載を始めることにした。

話を聞くのは、
作る側の視点で音楽を見てきたシオジリケンジ(通称:シオケン)と、
書く側・聴く側の距離感を保つ音楽ライター神崎いろは(通称:いろは)。

事前打ち合わせはほぼなし。
テーマだけ決めて、あとは会話任せ。
まるで緊急インタビューのような温度感で、
プリンスのアルバムを1枚ずつ、真正面から語っていく。

評価を固めるためじゃない。
神話をなぞるためでもない。

ただ――
「この音、どう思う?」
その一言から始まる対話を、ここに記録していく。

まず最初に取り上げるのは、
すべての始まりにして、最も誤解されやすい一枚。
1978年発表のデビューアルバム
『For You』 だ。

さて、
プリンスは最初から“プリンス”だったのか。
それとも、ここから始まったのか。

——では、話を聞こう。


「これがデビュー作って、どう考えてもおかしい」

いろは:
シオケンさん、プリンスの1stが『For You』って知識としては知ってたんですけど、
正直そこまで期待せずに聴いたんです。
……そしたら、いきなり「え?」ってなりました。

シオケン:
わかる(笑)。
「これ本当にデビュー?」ってなるよね。

いろは:
19歳で、しかも“ほぼ全部自分でやってる”って……。

シオケン:
そう。
ボーカル、コーラス、ドラム、ベース、ギター、キーボード。
実質ワンマンバンド。
今なら宅録で珍しくないけど、1978年のメジャーデビュー作だからね。


1曲目で「俺はこういう人間だ」と言い切っている

いろは:
1曲目の「For You」、あの多重ファルセット。
あれ、いきなり“プリンスの世界”に引きずり込まれますよね。

シオケン:
完全に宣言だよね。
「俺の声だけで、ここまでできる」って。

いろは:
ゴスペルみたいでもあり、ソウルでもあり。

シオケン:
しかも感情的というより、構築美
声を楽器として扱ってる。
後年のプリンスのやり方、もう完成してる。


甘いけど、実はめちゃくちゃクール

いろは:
全体を通して聴くと、ロマンティックで柔らかい印象もありますよね。

シオケン:
でも中身は相当クール。
音数は少ないし、リズムはタイト。
「Soft and Wet」なんて、色気の塊だけど、
構造はかなり計算されてる。

いろは:
19歳の“勢い”じゃなくて、
19歳の“設計力”。

シオケン:
そう。
感覚派に見せかけた、完全なコントロール型アーティスト


制作秘話:大人たちが口を出せなかった理由

いろは:
でも、レコード会社は不安にならなかったんですか?

シオケン:
相当困惑したらしいよ。
セッションミュージシャンを入れようとしても、プリンスが全部断った。

いろは:
19歳で「自分でやるから」って。

シオケン:
普通なら止められるけど、

確かプロデューサーを掃除婦に扮装させてレコーディングの様子をチェックさせたとか
でもそのあまりにもよくできた手際で次々と音を重ねていくもんだから
結果、誰も口出しできなくなった(笑)

いろは:
それで次作『Prince』、さらに『Dirty Mind』へ……。

シオケン:
一気に加速していく。
でも根っこは、この1stと何も変わってない。


『For You』は「若書き」じゃない

いろは:
後年の代表作と比べると、派手さは控えめですよね。

シオケン:
でもこれは“完成度勝負”のアルバムじゃない。
自己紹介アルバム

いろは:
しかも、その自己紹介がブレてない。

シオケン:第1弾シングルだった「Soft And Wet」はのちの「1999」「KISS」辺りのファンクネスを感じるし
「Crazy You」「BABY」とかはのちの「Beautiful One」「ADORE」「Damn U」とかにつながっていくし
驚きなのはロックの系譜もちゃんと1stに入ってる最後の「I’m Yours」はのちの「Let’s Go Crazy」
「Endrophinmachine」「Chaos and Disorder」とかにつながってる

いろは:
もうプリンスの原型がここにあるって感じですよね

シオケン:
そう。
プリンスのキャリアって「成長物語」じゃなくて、
最初から完成してて、表現の射程が広がっただけなんだよ。


これからプリンスを聴く人へ

いろは:
正直、『Purple Rain』から入る人が多いじゃないですか。

シオケン:
それもいいけど、
『For You』を最初に聴くと、全部の意味が変わる。

いろは:
後の名盤が“答え合わせ”になる。

シオケン:
そう。
『For You』は派手じゃない。
でも、静かにとんでもないことをやってるアルバム

いろは:
プリンスという物語の、
一番静かで、一番重要な第一章ですね。

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